公共スケートパークの現状

2020年 東京オリンピックで正式に競技採用された”スケートボード”ですが、開催国である日本国内には、東京オリンピックで種目となっている”ストリート”と”パーク”の練習が出来る公共スケートパークの数が、アメリカやオーストラリアなどの海外に比べて圧倒的に少ない状況です。


日本国内では、公園や道路といった場所でのスケートボード利用がかなり厳しく規制されていますが、それは日本が世界でも有数の治安の良い国とされている理由の一つでもありますから、日本という国の公共の場所に対する考え方は決して間違っているわけでは有りません。

例えば、自宅のバックヤードにランページを置いたり、民間が運営するスケートパークであれば、好きな人達が集まってお金を出し合って好きなように造ることも出来ますが、ワンプッシュ10m以上も滑走できるスケートボードを複数の人が利用する場合に必要な面積は、充分な安全性を考慮すると、セクションを置かないフルフラットのストリートの場合でも800平米以上、ボールやプールを造る場合は500平米以上、高さ90cm程度のかなり小さなランページを置く場合でも100平米以上の敷地を確保することが望まれます。よほどの遊休不動産や遊休土地を持っている資産家でも無い限り、日本で個人のスケートパークを持つことは非常に難しい現状です。

公共スケートパークを考える順序

私たち、特定非営利活動法人日本スケートパーク協会は、地方公共団体が公共スケートパークを造る計画を立ち上げる前の段階から、地域に住まう利用者の皆様に対して以下の手順で公共スケートパークの事を考えていただけるようアドバイスしています。なぜなら、ほとんどの場合は何も無いところから相談をお受けしているからです。

【1】まずは基礎・骨格となる『理念』を考えていただきます。
  1. 誰のために造るのか?
  2. 何のために造るのか?
  3. 公共スケートパークを造ることで期待できる効果は?
  4. 公共スケートパークの安全性をどう担保するのか?
  5. 利用者のマナーをどう守るのか?
【2】次に地域毎に異なる利用者の使い方『方針』について考えていただきます。
  1. 公共スケートパークをどう利用したいか?
  2. スケートボード以外のストリートスポーツ利用者をどう考えどう受け入れるのか?
  3. 初めての利用者や初心者をどう受け入れ育てるのか?
  4. ある程度滑れるようになった人にどう利用してもらいたいのか?
  5. 10年後~20年後~30年後の利用をどのように想定するのか?
【3】そして使い勝手や必用な『設備』について考えていただきます。
  1. イベントや大会の開催は想定されるのか?
  2. 夜間照明は必要か?
  3. 屋根は必要か?
  4. 電気、水道、トイレ、シャワーなどの設備は必要か?

*上記【1】~【3】を検討している中で、地方公共団体と話をする団体を作り代表者を決めておきましょう。

*この段階では、まだセクションの構成やパークの構造や規模について考えるのは早過ぎますし無駄です。

*ここまでの考えがまとまって、初めて地方公共団体と話ができる準備が整いました。

【4】地方公共団体との『交渉』をします。
  1. お住まいの地域の地方公共団体の中で公共スポーツ施設を担当している部署を調べます。
  2. お住まいの地域の議会議員に相談をします。
  3. (大まかな予算案や必要面積を訊かれた時はお気軽にJSPAまでご相談下さい)
  4. 地方公共団体と議会議員の考えをよく聴いて、利用者団体に持ち帰って検討してください。

ここで、地方公共団体の皆さんや議会議員の皆さんに全く響かない場合は以下の事が考えられます。

  • 一番大切な【1】~【3】の内容に税金を投入できるだけの説得力が無いか?
  • その地域の財政状況がスケートボードというスポーツをする場所を造ることよりも、もっと他に使うべき事があるか?
  • 地域に住まう住民やこれから地域の経済を担う子ども達の将来や育成について考える余裕が無いか?

自分達利用者が改善することで公共スケートパークが造られるのなら改善してください。選挙で議会議員や首長が変われば公共スケートパークが造られるのなら自分達の目的を達成するために選挙活動をしたり投票行動を起こしてください。しかし、そうでは無い場合。スケートボードが利用できる公共施設がある場所や、これから公共スケートパークが出来る場所に引っ越す事を考える必要があるかもしれません。

【5】地方公共団体の『建設計画』策定。
  • 地方公共団体が想定している場所や予算案が利用者の望むスケートパークとして妥当かどうかの検討。
  • 利用者の望むスケートパークが地方公共団体の財政状況や想定することに対して妥当かどうかの検討。
  • 地方公共団体からの大まかな予算案提示。
【6】公共スケートパークの『基本設計』開始。
  • 以上の【1】~【5】の内容を考慮した、公共スケートパークのデザイン案を検討します。
  • 地方公共団体と利用者団体が承認したデザイン案をもとに基本設計を開始します。
  • パークの規模と予算案と承認されたデザイン案が出揃ったここで初めてセクションの構成やパークの構造を考えていただきます。

このあとの進め方は、地方公共団体の考え方や工期が反映されるため、一概には申し上げることは出来ませんが、何事も基礎さえしっかりしていれば良いものができます。

ご留意いただきたいこと

JSPAは【5】の『建設計画』策定の段階で、設計の委託を受ける場合が多いのですが、各地方公共団体から「入札してくれないか?」という問い合わせを多数お受けしております。しかしながら、日本国内に一社しかない専業のスケートパーク設計会社とはいえ、大手ゼネコンのバックアップや寄付で運営しているわけではございませんし、今まで述べたとおり、私達の協会は、健やかに活力あるこれからの日本を背負って立つ子ども達を支える【理念】によって、志を共にする専門家が集まった集団です。

例えばこれまでの事例ですと、落札した設計コンサル会社の下請けとして、基本設計や実施設計をお手伝いさせていただくこともございます。ただし、一番私たちが重要だと考えている【理念】が、予算や工期や元受の都合によって台無しにされてしまうようであれば、せっかく税金を投入して完成したスケートパークであるにもかかわらず、利用者の皆様に長期的に大切に使い続けて頂くことを促すことはとても難しく、逆に地域の住民の皆様にとってご迷惑な施設となってしまうことを経験上理解しておりますので、設計入札や工事入札の図面、仕様書の中に「特定非営利活動法人 日本スケートパーク協会の監修を必要とする」と明記していただいております。

JSPAが監修させて頂く場合にご期待いただけることは、そこにしかない、そのパークの成り立ちや、まだ50~60年ほどしか経っていない浅いスケートパークの歴史では有りますが、利用者の皆様の心に脈々と流れる意志や理念を凝縮するという「ブランディング」を通して、パーク完成後も引き継がれるサクセスストーリーが出来上がります。それは末永く大切に利用していただくための要素となる【理念】がスケートパークという形になる大切な道程です。

結果として、私たちJSPAが設計に携わった複数の公共スケートパークがグッドデザイン賞を受賞したことや、多くの利用者の皆様や親御さんから「日本で一番マナーが良く安心して子どもを練習させられるパークだ」とお聞きすること、また地域住民の皆さんに引き続きご理解いただける施設である事はとても喜ばしいことです。

2020年 東京オリンピック スケートボード競技会場について

世界中の若者や子ども達から注目が集まっている東京オリンピックでのスケートボード競技ですが、開催までもうあと約二年となりました。

初めての競技種目という事もあり、オリンピック組織委員会さんも手探りの状態かもしれませんが、せっかく日本で初めて開催されるスケートボードの競技場ですから、世界の度肝を抜く競技施設になることを期待しています。恐らく、海外からの注目の高さは、スケートボード競技開催日の来日者数に直接影響するほどの人数が見込まれますし、世界中の若者や日本を大好きな皆様に、日本の伝統文化と風情と、心意気をお伝えできるよう、ご相談いただいた際には「皆様の頭がスッキリするプレゼン」を勝手に準備しておりますので、期待とともにお気軽にお問い合わせご相談下さいませ。

SNS share